色(いろ)

古来から,さまざまな色が魔除けや吉兆など呪術的意味をこめて,身体や衣服の装飾,建築物の塗装などに使われてきた。同時に,色は歴史的に身分や位階など社会集団内での区分や差別に,また国旗のように国家や共同体の統合シンボルにも使われてきた。それぞれの色がどのような意味を持つかは,時代や文化圏で違いがあり,例えば黄色は中国では皇帝の色とされたが,ヨーロッパではユダヤ人を社会的に排除し,差別する色として利用された。他方では,古代ローマでは紫が皇帝の占有色とされ,東洋でも紫は高い身分の象徴として使われたように,地域や時代をこえた共通性がみられる場合もある。ヨーロッパでは,近代になると色が政治的立場やイデオロギーを象徴するものにもなった。赤が革命を,白が反革命を表現するようになったのは,その代表的例である。イスラーム世界についてみると,コーランには,色が象徴する意味についての言及はみられない。しかしムハンマドが緑の旗を用いた故事にもとづいて,緑のターバンは預言者の子孫を示すものとされた。純血や高貴さを示す白はウマイヤ家の色として軍旗やターバンに用いられ,この王朝に反逆するアッバース家はその象徴として黒を採用した。また,ムスリムと区別するために,ユダヤ教徒が黄色,キリスト教徒が青色のターバンの着用を義務づけられることもあった。中国では古来より人類に欠くべからざるものとして五行(ごぎょう),すなわち木火土金水を重んじ,それぞれいろいろなものに配当した。色もまた,その一環とし青赤黄白黒の五色が正しい色として重んじられた。前述のように黄は中央に位置したことから皇帝の色とされた。また,赤は赤眉(せきび)の乱や紅巾(こうきん)の乱など,しばしば農民反乱のシンボル色となった。五行はまた季節(春,夏,土用,秋,冬),方位(東,南,中央,西,北),感情(喜,楽,慾,怒,哀),数(八,七,五,九,六)などにも適用されたことから,青赤黄白黒がそれぞれ順番にそれらの特徴をなす色と考えられた。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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