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家父長制(かふちょうせい)

patriarchy 原義は,父系家族集団にあって,一人の年長男子が他の構成員(親族に限らず家内奴隷あるいは自由身分の使用人をも時に含む)および集団帰属の財産を包括的に支配する体制と,それをよしとするイデオロギーとをさす。成員に対する生殺与奪の権を含む強大な家父長権を軸に成り立つとされる古代ローマの家族をモデルとして,法学・社会学・人類学・歴史学の各分野で用いられてきた概念。十二表法採録の規定により著名な生殺与奪の権についても,行使の確かな事例が知られず,共同体的な習俗による制約が想定されるローマの場合をはじめ,「家父長制」の実態は時代・地域・身分階層別にさまざまで,議論の余地が多く,ヨーロッパでは,中世をへて近世に入っても産業革命成熟期まで,この概念の適用が可能な事象がみられる。中国でも父子が同居している場合,父が家長として家族に対して権威や法的な責任を持った。家族の生殺与奪の権限はなく,また財産の所有権の主体でもない。唐代の律令法によれば,家長の父が子を殺した場合は罰せられるし,財産は父子共産ともいえる。古代には家父長的家内奴隷制があったとし,豪族と奴婢(ぬひ)との非血縁的関係を家父長制の概念でとらえることもある。中国ではまた,子は父母に対して孝行すべしという儒教的道徳観によって,家父長の権威が守られていた。「家父長制」は,核家族を超える規模と構造を持つ家族集団を説明する際に用いられることが多いが,一人の強力な首長の下に立つより大きな社会集団,とりわけ専制君主政国家の支配形態を分析する概念として適用されることもある。家族を国家にまで拡張させて,中国諸王朝の国家権力を家父長的専制主義としてとらえる場合などは,その典型である。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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