贄(にえ)

神にささげる食べ物。とくに古代では天皇に対する食料品一般の貢納をさし,稲穀の初物貢納もさすが,魚介・海藻・鳥獣など山海の産物が中心。藤原宮跡・平城宮跡から大贄・御贄などと記した貢進物付札木簡が出土し,律令制下に天皇への贄貢納が行われたことが明らかになった。共同体の神や首長に対する初物貢納が起源で,大化前代にも大王に対する服属を示して行われたと推測され,改新の詔(みことのり)にも贄貢納の規定がある。ツキ(調)と贄は元来未分化だったが,律令制で人身賦課の調雑物(ぞうもつ)制にとりこまれ,分離した贄は国郡や地域を主体とする貢納の性格をもち,雑徭(ぞうよう)や交易などで調達したらしい。「延喜式」によれば,こうした服属儀礼的な年料の系統のほかに,畿内近国や御厨(みくりや)からの旬料・節料の系統がある。供御(くご)として贄戸などの集団から貢納され,奈良時代に三河国篠(しの)島・析(さく)島・日莫(ひまか)島の海部(あまべ)が交代で毎月贄を貢上した例も知られている。10~11世紀に内廷経済の再編が進み,御厨の荘園化,贄人の供御人化がおこり,中世的な形態に移行した。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)

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