氏(うじ)

親族集団およびその集団名。万葉仮名では宇治(うぢ)。朝鮮語のウルulなど,父系親族をさす語に由来するとされるが,氏はそもそもは非父系の集団であったらしい。5世紀後半から形成され,地名や職掌などにちなむ氏名(うじな)をもち,姓(かばね)で秩序づけられる。原始氏族とは異なり,一般民衆は含まれない。古代の氏は,非血縁をも含む氏人(うじびと)が族長の氏上(うじのかみ)に率いられ,奴婢を所有し,部民を統轄して朝廷に仕える,支配層だけの政治的組織である。7世紀後半の八色の姓(やくさのかばね),甲子の宣(かっしのせん)などの一連の氏族政策により再編され,以後は父系血縁集団としての性格を固める。律令制により旧来の政治組織としての性格は否定されたが,氏による奉仕の伝統は平安時代まで続いた。中世以降,社会集団としての実質を失ったあとも,天皇から賜る氏名の観念は存続し,家々が称する苗字とあわせて,授位・任官などの場では氏名が必要だった(明治初年まで)。現在の法律用語としての氏は,苗字=ファミリーネームをさす。 (山川 日本史小辞典(改訂新版), 2016年, 山川出版社)

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