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都市(とし)

ヨーロッパの古代都市はギリシアのポリスに代表され,これは都市国家として,アゴラや神殿,劇場など市民の公共生活の施設が都市の中核をなしていた。その性格を受け継いだローマとその属領都市は,帝政時代にはさらに,闘技場や大浴場など巨大な公共建築物で彩られることになる。生産活動を奴隷に依存した古代の都市が基本的に消費都市であったのに対し,中世都市は商人や手工業者である市民の生産,通商活動の場であり,また自治権を持った都市民の城砦でもあって,城壁に囲まれ,家屋が密集した市街の中心には市庁舎,市場広場,教会がある。近世に入ると絶対主義国家の成長に伴い,都市の自治が失われる一方,パリ,ロンドンなど各国の首都が大都市化し,地方都市は地方行政拠点として再編成されてゆく。産業革命は多くの産業都市を発展させ,また都市の機能の多様化に伴い多数の人口が大都市に流入して,建築物の高層化が新しい都市景観をつくる一方,環境問題をはじめとする新たな都市問題を発生させた。これは当初植民都市として発展した南北アメリカの近代都市,またアジアの近代化した都市についても同じである。中国における都市の歴史発展は,早期に出現した巨大な統一国家の行政支配と密接にかかわっている。まず文明の発祥した黄河や長江流域で都市的集落が叢生し,殷(いん)周時代に城壁で囲まれた「邑(ゆう)」と呼ばれる都市国家が成立した。戦国時代以降,領域国家に成長すると,国都も巨大化した。秦漢統一帝国の成立以降は,国都を頂点とし郡治や県治(県城)からなるヒエラルキーに整序されるとともに,軍事や徴税などの便宜から全国各地にほぼ均等に地方都市が配置された。当時,行政的中心が置かれた城郭都市の総数は,およそ大都市100,中小都市1500あまりで,近代に至るまで変化がなかった。10世紀を境に商業が発展し全国市場が形成されると,「草市」や「鎮」と呼ばれる商業集落が発生し,県城と農村をつなぐ商業ネットワークが形成された。歴代の王朝や政権が置かれた国都の数も膨大で約160を超えるが,特に10世紀以前の西安,それ以後の北京が代表的である。アヘン戦争以後には,開港場に設けられた外国租界地から上海,漢口,天津などの大都市の発展も始まった。西アジアのイスラーム都市は,古代オリエントの都市を起源とするもの,軍事,通商上の拠点に築かれたもの,王朝の都として造営されたものなど,その形成過程はさまざまである。しかしいずれの場合も,金曜集団礼拝のためのモスクと市場(スーク,バーザール)とを有し,これらの施設をはじめとするインフラストラクチュアの整備に,ワクフと呼ばれる制度が大きな役割を果たしてきたことにイスラーム都市としての特徴を見出すことができる。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

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