1. 用語
  2. 世界史 -ゆ-
  3. ユートピア思想(ユートピアしそう)

ユートピア思想(ユートピアしそう)

「ユートピア」(理想郷)の実現をはかる思想。ヨーロッパにおいてはすでに古代ギリシアにおいて哲人の統治する「理想国」を描いたプラトンの『国家』があり,中世ではアウグスティヌスの『神の国』においてキリスト教の中心思想として主張された。しかしそれが世俗のものとして主張されるのは,ルネサンス・ヒューマニズムの出現をまたねばならず,それはカンパネッラ『太陽の都』,ベーコン(フランシス)『ニューアトランティス』となって現れた。「ユートピア」の造語者であるモアの画期性は,現実の16世紀イングランド社会に対する批判・風刺を土台にその実現を主張したことにあり,この系譜は19世紀イギリスのオーウェン,フランスのサン・シモンらの資本主義批判としての「ユートピア社会主義」に連なり,20世紀において全体主義批判としてオーウェルの『1984年』にその文学的表現を見出している。一方,中国においては「ユートピア」の思想は大同思想に求められる。大同思想とは,現世を批判し,かつて大同と呼ばれる理想が実現されていたとする太古の聖人の世に戻ることを求めたもので,その理想的な世界は『礼記』(らいき)礼運編に具体的に記されている。そこには貧富の差がなく,みな平等で,犯罪のない,究極至福の世界が展開されている。それゆえ,この世界の実現はしばしば民衆反乱のスローガンとなった。太平天国の徹底した平均主義はこの思想がもとになっている。また,康有為(こうゆうい)が『大同書』を著し,その社会への復帰を強調したことから,清末の知識人にも大きな影響を残した。さらに,この思想は孫文の三民主義や毛沢東思想にも色濃く影を落としているといわれている。 (山川 世界史小辞典(改訂新版), 2011年, 山川出版社)

この記事が気に入ったらいいね!しよう