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特集「大敗から学ぶ Vol.3」 倒産から立ち上がる最強ビジネスの考え方

ビジネスでは、事業の失敗、倒産を「大敗」と位置づけられます。もちろん避けたい事態ですが、サラリーマンでも経営者でも企業に関わっている以上、倒産は他人事とはいえません。常に私たちの側にある大敗と、どのように向き合えばよいでしょうか?
倒産と再生を研究する千葉商科大学の太田三郎先生は「大敗しても再チャレンジできる文化こそ、社会の活力を高める」と指摘します。

倒産=死ではない。倒産は経営のプロセスだ

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−倒産は経営者にとっても、従業員にとっても重大な出来事です。私たちはどのように倒産に向き合えばよいのでしょうか?

「倒産」と聞くと、企業にとって「この世の終わり」のように思われがちですが、それは間違いです。事業再生の取り組みはさかんで、民事再生法などの仕組みも整っている現在、倒産はビジネスの最終局面ではありません。
確かに、ビジネスにおける「大敗」の一つではあります。しかし、大敗=死ではないことを思い出してください。歴史上、多くの英雄が大敗を経て成功を勝ち取ったように、倒産と再生は経営のプロセスと考えるべきです。

究極の局面で「人」の力が試される

−倒産から再生できるのはどんな企業なのでしょうか?

東日本大震災の影響で、東北では多くの企業が危機に陥りました。倒産から再生した企業を研究したところ、大きく次の要素を持っていたと考えられます。

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例えば、次は福島県で被災したH精器製造株式会社の事例です。

当社は福島県須賀川市の本社・須賀川工場の社屋三階建て部分が倒壊するという甚大な被害を受けた。そのなかで、幸いにも社員は従業員の唯一人も犠牲にすることなく全員無事に退避することができたが、製造機能は完全に停止せざるを得ない状況に陥っていた。 私達は被災の直後から復旧に向けて正に社員全員が一丸となって困難に立ち向かってきた。 被災後直ちに復興対策本部を設け、実行部隊である復興委員会を連日開催しながら復旧を進めた。その後、幸いにも同市横山工業団地内の空き工場への移転が早期に決まった。社員の知恵と汗を結集して閉じ込められた機械を運び出し、使用できる機械等を移設、5月からは操業を再開した。6月6日には、ほぼ全工程の生産再開を果たすことができた。

私は2の「従業員のモチベーション」がとても重要だと考えます。
非常事態の下で、経営者のがんばりだけでできることに限界があります。そんなとき、最初に助けてくれるのは従業員です。従業員とその家族は地域社会の一員でもあり、彼らと心が離れてしまっては、立て直しはかないません。

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大震災のような究極の状況では、企業と人、社会との関係が鮮明になります。確固たる企業理念を持ち、従業員や地域社会を大切にしてきた企業が強いのです。

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ピンチをチャンスに変えるアグレッシブリスクマネジメント

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−スポーツと違い、ビジネスで大敗すると再起不能もあり得ます。そのような事態を避けるためにはどうすればよいのでしょうか?

倒産を防ぐのは、リスクマネジメントしかありません。多くは、損失を回避したり支出を抑えて財務を健全化する「コンサバティブ」なリスクマネジメントにまず注力します。
さらに、新商品や新規事業への挑戦といった「アグレッシブ」な施策も、企業価値を高めるリスクマネジメントとなり得ます。

kigyosaisei07.png成功体験があるほど忘れがちですが、市場は必ず成長から成熟、衰退へと向かいます。同じことをやり続けると、企業価値が下がるのは当然で、放っておけば倒産の最大の原因である販売不振へ向かうでしょう。近年、老舗の倒産件数が増えているのは、アグレッシブな変化が停滞していることに要因があるかもしれません。

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倒産(不振)と再生のサイクルは、上図のように上向きスパイラルを描くことが理想的です。
倒産、事業不振に陥っても、アグレッシブなリスクマネジメントが再生の原動力になります。大敗はしても死んではおらず、血が通っている状態です。日々の商品の改良から市場の開拓、既存事業からのピボットや多角経営も再生の大きなポイントとなります。

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どんなビジネスにも必ずピンチは訪れます。失敗しない経営者はいませんし、ときに倒産か同等クラスの大敗を喫することもあります。経営者や従業員の努力や能力だけでなく、運も勝敗を大きく左右するファクターです。

結局のところビジネスで成功するのは、大敗を成功の糧にできるポジティブな経営者。誰しも倒産は避けたいものですが、仮にした場合も通過点のひとつと考え、ピンチに果敢に挑戦しチャンスに変える経営者が増えることを願っています。

編集部まとめ:民事再生の現状

2000〜2015年に民事再生法を申請した法人のうち、80.2%は再生計画を認可されています(手続進捗が確認できた7341社のうち5890社に認可)。意欲のある経営者に対しては、再生の間口は広いと言えるでしょう。

一方、認可された法人のうち2015年時点で生存しているのは36.3%。消滅した企業のほとんどが、裁判所の手が離れ民事再生が「終結」した後に解散や廃業、統廃合でなくなっています。

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東京商工リサーチ調べ(「民事再生法」適用企業の追跡調査 (2000年度-2015年度))

数字の見方は判断の分かれるところでしょうが、東京商工リサーチは次のようにコメントしています。

民事再生法は再建型の倒産法だが、「倒産」というマイナスイメージにより企業信用やブランド力の毀損が避けられない。

再チャレンジできる社会を実現するためには、太田先生が指摘するように、倒産という大敗を「死」ではなく「成功へのプロセス」だと皆がとらえることが必要です。

取材:経営学者 太田三郎先生

dr.ota.png千葉商科大学名誉教授・経営行動研究学会会長
危機管理システム研究学会常任理事(元会長)
企業倒産調査年報検討委員会座長(一財 企業共済協会)
倒産・再生・リスク管理に関する主要著書・編著書
『企業倒産の研究』(1996),『企業の倒産と再生』(2004),(『倒産・再生のリスクマネジメント』(2009),『大震災後に考えるリスク管理とデイスクロージャー』(2013)以上同文舘出版。『経営財務の情報分析』(2015)学文社。

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