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  2. 自分は隣人と、ほとんど会話ができませんでした。何をどういったらよいのか、わからないのです。そこで考え出したのは、道化でした。それは、自分の人間に対する最後の求愛でした。

自分は隣人と、ほとんど会話ができませんでした。何をどういったらよいのか、わからないのです。そこで考え出したのは、道化でした。それは、自分の人間に対する最後の求愛でした。

作家 太宰治 『人間失格』

人が怖い、わからない、しかし、なんとか人とつながっていたい。そこで表面では絶えず笑顔をつくり、ピエロを演じ、裏では油汗をかきながら必死にサービスをする、そのような苦しい人間関係。誰もが経験する心理ではないだろうか。自分がピエロを演じていては、他人もその見物人でしかなく、見物人の前ではいつまでもピエロを演じ続けなくてはならない。哲学者のヤスパースは、「他者が他者自身でない時は、自分も自分ではありえない」と語っている。どこかで自分の素顔をカミングアウトし、本気の自分を出す決断をしなければ、他者も見物人から本当の彼自身になってくれない。すべての人にウケなくてもいいではないか、一人でも素顔のあなたの真価をわかってくれる人がいれば。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、51ページ、2015年、山川出版社

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