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私は何を知るか?(ク=セ=ジュ?)

フランスのモラリスト モンテーニュ『エセー(随想録)』

モンテーニュは天秤の皿にそれぞれ対立する意見をおき、つねに天秤を揺らせ、皿が一方に傾かないようにバランスを保ちながら、こちらはどうか、あちらはどうかと疑い、何ごとについても独断を下さぬよう心がけた。彼の懐疑主義のモットーは、つねに「私は何を知るか?」という疑問符をいだくことである。それは、一方的な意見にかたよらず、拙速に断定せず、つねに真理を探究し続ける態度をさす。それはおのれの信念に凝り固まって、他人の考えを拒絶する頑冥さにおちいらないための工夫であり、対立する考え方に柔軟に対応しつつ、よりよい方向を見出すための心がけでもある。一つの方向に突き進む若者の情熱もよいが、さまざまな意見があることを承知の上で、全体を見渡し、俯瞰しながらゆっくり歩む大人の慎重さも必要である。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、31ページ、2015年、山川出版社

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