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法隆寺は焼けてけっこう。

芸術家 岡本太郎

法隆寺、世界最古の木造建築として国宝、世界遺産である。その法隆寺が燃えて結構とは、はなはだしい暴言である。その狙いは何か? 岡本太郎は前衛芸術家として、つねに人目を驚かす新しいもの、世間の常識をはずれた「べらぼうなもの」を造り続けた。法隆寺も1500年前に創建されたときは、人びとを驚かす極彩色に彩られた、巨大な伽藍であった。ならば、法隆寺を伝えるということは、その建物自体を保存することに尽きるのではなく、その法隆寺を建てた先人の創造的な精神を受け継ぐことである。過去の遺物にこだわる心を捨て、新しいもののクリエイトに燃える心を持ち続けることである。その意味で、過去の法隆寺を燃やし、それを踏み越えて現代の新しい法隆寺を創造することが、真に法隆寺建立の精神を受け継ぐことであると、岡本太郎は言いたいのであろう。大阪府吹田市の万博会場跡にたたずむ太陽の塔は、彼の法隆寺である。過去の既成物を破壊し、その上に自分たちの手で新しいものを打ち建てる創造的破壊こそが、先人の創造的精神を受け継ぐことである。岡本の造った20世紀の法隆寺も、また、いつか誰かに乗り越えられるだろう。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、25ページ、2015年、山川出版社

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