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戦争は実に人を禽獣化するものであります。

キリスト者・思想家 内村鑑三 『日露戦争より余が受けし利益』

戦争をすることは、人を殺す行為であると同時に、みずからの人間性をも破壊することである。そのことは戦場から帰還した兵士が、心理的な外傷(トラウマ)に苦しむ現実からも推測できる。明治時代、人びとが日露戦争の勝利に沸き立つ中で、内村鑑三は日本側でも、ロシア側でも、いかに多くの若者が兵士として命を落としたかを悲しみ、さらにそれを悲しむことを忘れて人びとが勝利に酔うことをも悲しみ、人として戦争そのものを否定する非戦論を唱えた。内村は語っている、敵の死傷者二十万と聞けば、喜びのあまり我が国の死傷者五万と聞いても一滴の涙も注がなくなる。戦争によって、人は敵を憎むのみならず、同胞をも省みざるに至る。人情を無視し、社会を根底から破壊するものにして戦争のごときはない、と。戦争の熱狂に巻き込まれ、みずからを鳥や獣となすことのないためには、人とは何かを問い続けて人間性を身につけて、最後まで人として生きぬく覚悟が必要である。同時に、人は鳥や獣以下にもなりうる怖さをもっていることを知っておく必要もある。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、82ページ、2015年、山川出版社

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