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  2. 気に入らない事、癪に障る事、憤慨すべき事は、塵芥のごとく沢山あります。それを清める事は人間の力ではできません。それと戦うよりも、それをゆるす事が人間として立派ならば、そちらの方の修養をおたがいにしたいと思います。

気に入らない事、癪に障る事、憤慨すべき事は、塵芥のごとく沢山あります。それを清める事は人間の力ではできません。それと戦うよりも、それをゆるす事が人間として立派ならば、そちらの方の修養をおたがいにしたいと思います。

明治〜大正時代の文学者 夏目漱石 武者小路実篤宛ての手紙

善意をもって生きようとするほど、その善意は裏切られ、誤解され、つけこまれ、裏目にでて、がっかりさせられることの多い世の中。精神の過敏さゆえに、そのようなことをいやというほど味わった夏目漱石の本心であろう。でも、人の世を逃げ出して「人でなし」の国に行くよりは、「人の世」にとどまった方がましだと、漱石は『草枕』で語る。人として生まれれば、癪にさわろうが、憤慨しようが、この人の世を渡っていくしかない。ならば、思うにまかせぬことが塵芥のごとくある人の世をゆるし、そこで自分なりに世の中を泳いでいくより他ない。人をゆるすということは、その人をゆるせないとまなじりを上げていた自分をもゆるすことであり、自分が楽になる道である。人生、清濁あわせ飲む飲む度量の広さが必要。

もういちど読む山川哲学 ことばと用語、55ページ、2015年、山川出版社

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