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語りえぬものについては、沈黙せねばならない。

オーストリア出身,イギリスの哲学者 ウィトゲンシュタイン 『論理学論考』
言葉は現実の事象との対応関係の上に成り立っているから、これと指し示される対象について語ることはできるが、それを越えた神や道徳など抽象的なことについては論理的に語ることはできない。しかるに、そのような「語りえぬもの」についてあえて語ろうとする矛盾を犯したところに、従来の人間の思想の混迷があったというのが、ウィトゲンシュタインの前期の哲学である。人間は言葉によって考える。しかし、どれだけ語っても現実をすべて語り尽くすことはできまい。現実はつねに言葉を越えた深く豊かな内容をもち、言葉ですべてを語り、説明し、割り切ることができると思うのは人間のおごりであろう。そのおごりから思想信条の対立が起こり、テロや紛争にまで発展する。思想家と詩人の違いはそこにある。詩人はいくら言葉を重ねても語り尽くせぬ現実の奥深さを予感し、言葉を使うことに謙虚である。我われは現実をすべて語り尽くしたと思いあがった時、思考停止におちいる。「私はすべてわかっている」というおごりの落とし穴に注意し、時には沈黙の中で言葉で言い尽くせない現実の奥深さを見つめてみよう。もういちど読む山川哲学 ことばと用語、33ページ、2015年、山川出版社
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