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【特別寄稿】鉄器時代はいつ始まったのか

2019年3月25日朝日新聞で報じられた製鉄の人類史に一石」の記事。この記事は『人類至上「最大の発明」の一つとされる鉄の歴史が変わるかもしれないー。』と実に興味深い文章ではじまる。今回は、このニュースが記事となる発見をされた「アナトリア考古学研究所 大村幸弘所長」に鉄器時代のはじまりから、今回の発見の意味までを取り上げて頂きました。

鉄の起源

鉄器時代の開始は、今からおよそ3200年前といわれます。ちょうどヒッタイト帝国が終焉を迎え、古代オリエント世界は一気に青銅器時代から鉄器時代に入った時期でもあります。
産業革命以後、「鉄は国家なり」と各種産業の基盤となった鉄ですが、それを生産する技術は、偶然性と人類の創意工夫が折り重なって生まれたものだと思われます。
いたるところで入手出来る鉄鉱石から鉄器を生産する手掛かりを見出し、そしてそれを国家の基盤にまで完成させたのがヒッタイト帝国です。この帝国の都の遺跡から出土したボアズキョイ文書によると、ヒッタイトは製鉄技術を秘密裡に保持していたようです。
考古学による時代区分
鉄器時代なる用語を考案したのは、デンマークの考古学者C. J.トムセンである。1836年、彼は遺物の材質、つまりその時代の人々が使用していた道具の材質を基に石器時代、青銅器時代、鉄器時代の三時代法を提起、その後多くの研究者によって旧石器時代、新石器時代、銅石器時代、前期青銅器時代、中期石器時代、後期石器時代、そして鉄器時代と細分化され、現在にいたっている。

製鉄の歴史が変わるかもしれない発見

アナトリア考古学研究所は、1986年、トルコ共和国のほぼ中央部に位置するカマン・カレホユック遺跡で考古学の発掘調査を開始しました。


この調査の目的は「文化編年の構築」であり換言すれば「年表」の作成です。約一万年の文化を包含しているこの遺跡の調査を通して、これまで第I層(15~17世紀のオスマン帝国時代)、第II層(前12~前4世紀の鉄器時代)、第III層(前20~前12世紀の中期・後期青銅器時代)、第IV層(前25~前20世紀の前期青銅器時代)の文化を確認しています。

第I層からは鉄生産を行なった大形炉址をはじめとして鉄滓、鉄製品が大量に出土しています。第II層の鉄器時代からも鉄製農具、武器等が数多く確認されています。第III層の中期・後期青銅器時代に入ると極端に鉄器の出土例は減少しますが、しかし、出土数が少ないとはいえ存在するので、ボアズキョイ文書通り、鉄生産はすでに始まっていたといえるでしょう。

しかし、それ以上に驚愕させたのは2010年代以降の調査で、まったく予期もしていなかった第IV層の前期青銅器時代、つまり前3千年紀の第4四半期からも幾つもの鉄関連資料が出土したことです。この時期にはアラジャホユックの王墓から隕鉄製の鉄剣が出土しているぐらいで、その他の出土例は皆無に近いのです。カマン・カレホユック遺跡からは鉄滓、炉壁片、鉄鉱石を含む資料が出土しました。とくに鉄滓が出土していることは、鉄生産がこの遺跡でおこなわれていた可能性を強く証明することにも結びつきます。

編年模式図new_1.png図:カマン・カレホユックの文化編年

仮説検証 製鉄の歴史

これまでカマン・カレホユック遺跡の鉄関連資料の分析に当っている岩手県立博物館上席専門学芸員(文化財科学)赤沼英男氏は、前期青銅器時代の鉄関連資料の分析結果から、鉄生産はヒッタイト帝国時代よりはるか1000年前に開始されていたとする仮説を打ち立てています。

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カマン・カレホユック遺跡は、ヒッタイト帝国内の版図の中に位置するものの、決して帝国の中核をなす都市であったとはいえません。ヒッタイト時代以外の時代においてもそれほど重要な役割りを演じたとは見えないし、一地方都市の立場に甘んじていたように見えます。そのカマン・カレホユック遺跡の前期青銅器時代から鉄関連資料が次々と出土していることは、その時期にはすでにアナトリアでは本格的鉄生産が開始されていた可能性を十分にあり得ます。 このように、ここ数年のカマン・カレホユック遺跡の前期青銅器時代から出土している鉄関連資料から、これまで考古学で使用してきている「鉄器時代」の開始時期を再考する必要が出てくるのではないかと考えています。

エピローグ(著:山川出版社編集部)

欧米の研究者たちによる古代の文化編年をくつがえすこの画期的な発見は、大村先生が30年以上積み重ねてきた発掘の成果です。地面の下に埋まっているものを発掘・調査・研究する作業は、地道で根気がいる上に、すぐに答えがでるものではありません。先生も「確固たる目的をもっていてもふらつくことが何度でもある」とおっしゃっています。1つの問題点を追い求める飽くなき情熱こそが、この発見を産んだといえるでしょう。

編集部オススメの「こんな本を一緒に読むと面白い」

大村幸弘『トロイアの真実』(山川出版社)
シュリーマンのトロイア発掘を描いた『古代への情熱』を読んで考古学者を夢見た人も多いだろう。 本書は、彼が発掘した遺跡は果たして本当に古代都市トロイアなのか。アナトリアで30年以上発掘調査を続けてきた著者がそれを検証する。 どの学問分野にも通じるが、情熱と忍耐と、そして客観的科学的視座、これらがすべて揃ったとき、「発見」が実現するのだと感じさせられる1冊。 スライド3.jpg

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