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【歴史の転換期 Vol.6】古代の移民問題

今回は、繁栄するローマ帝国を悩ませた移民問題、教科書に見る「ゲルマン民族の大移動」と帝国の関係を見ていきましょう。日本ではあまり身近に感じない移民の問題。しかし、ヨーロッパ諸国においては政治的にも社会的にも非常に重要視される問題です。したがって、ローマ帝国を悩ませた移民問題と現代の移民問題は内容も質も違うものの、それが国政にまで影響を及ぼすという点で振りかえってみることは有意義なことでしょう。

移民と同化

時代に関わらず総体的に見て、移民の受け入れ体制がしっかりしている国の場合は、移民もその国に同化しやすく、その国の発展に寄与する人物すら現出します。ただし、理想を追うだけでもだめで、もともとの住民の感情も考慮に入れなくてはなりません。いずれにせよ、移民を受け入れる環境があるか否かは、その国の政治的スタンスとリーダーの理念と力量に大きく関わる問題といえます。

378年は何の年?

歴史の転換期シリーズ第2巻『378年 失われた古代帝国の秩序』でとりあげた378年とは、いったい何が起こった年でしょうか。

転換期2巻.png37889日、太陽の照りつける真夏のアドリアノープルの平原に、大勢のローマ軍が布陣していました。対する相手は2年前にドナウ川を渡って押し寄せてきた難民たちの集団ゴート族(ゲルマン民族の一派)たちです。ローマ皇帝ハドリアヌスの名にちなむアドリアノープルの地はバルカン半島のブルガリアやギリシア国境に近いトルコの町(現在名エディルネ)です。今もヨーロッパへの難民の入口とされている地域ですが、この時代の難民は中央アジアの遊牧民フン人によって黒海北岸の居住地を追われた人たちでした。

強さを誇っていたローマ軍が予想に反して敗れ、15000~3万人もの戦死者を出し、壊滅状態となりました。

ローマ帝国の兵として活躍したゲルマン人

それまでもローマ帝国には多くのゲルマン人たちが移住してきました。そもそも、ローマは、移民たちに対して門戸を開けていました。彼らの目にはローマは輝かしい帝国にうつり、そこで活躍したいと思う者もかなりいました。ローマ帝国の皇帝たちも、劇場を作ったり道路を舗装したりして、帝国のすばらしさを誇示しました。そこにはローマの「支配した土地はすべて帝国、支配した土地の人もローマ人」という理念がありました。この様な理念とそれに基づく施策により、ローマに暮らす人々は「我々は皆同じローマ人!」という意識をもつようになり帝国は繁栄したのです。

この理念は、国家を統合するために政治的につくられた理念だったかも知れませんが、それが結果的にうまく作用していました。

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コンステンティヌス大帝の凱旋門に見るゲルマン兵士
敵と戦う主力部隊としてゲルマン人が描かれています。ローマ人と違い、
鎧を着けず、頭に角のような兜をかぶっているのが特徴です。

排斥意識の芽生えとローマ帝国滅亡

しかし、アドリアノープルの敗北を機にローマ帝国内部で、移民に対し敵視する動きが見られるようになりました。何万もの兵士が戦死した戦いの惨禍は、ローマ人の精神的有り様を変えるに十分でした。移民を「他者」として排斥する対象と考えたとき、ローマ帝国の外に開かれた精神は内向きになり、そこに敷かれた道は自分たちの滅亡への道でした。

アドリアノープルの戦いの約30年後、西ローマの国境地帯に当たるライン川の国境付近でもゲルマンの集団がローマ領ガリア地域に侵入し、ローマ帝国はそれを押さえることができませんでした。このため、西ローマの国境地帯は、いたる所ローマ軍の統制がとれない状況に陥っていました。

西ローマ帝国中枢部でも、外部部族出身の軍人が権力を握り、国家機能の基盤が崩れて、皇帝は単に存続しているのみ、という状態でした。この瀕死の状態が70年も続いた末、476年、ゲルマンの傭兵隊長により、とうとう西ローマ皇帝は廃されました。

アドリアノープルの戦い以降、帝国としての理念を維持できなくなったローマは、もはや帝国としての威信をも失っていたのです。その要因となったのが、ゲルマン人たち移民の問題でした。

編集部オススメの「こんな本を一緒に読むと面白い」

新・ローマ帝国衰亡史_1.png

南川高志『新・ローマ帝国衰亡史』岩波新書 2013
転換期21章をさらに深く、広く、詳しく読み進めたい方は是非こちらをご覧下さい。著者の「21世紀を生きる者の眼で、新しい視座から広く歴史的展開を眺めてみる」という観点が斬新である。
ピーター・ブラウン.png

ピーター・ブラウン(後藤篤子訳)『古代から中世へ』(山川レクチャーズ2)山川出版社 2006
古代ローマと中世ヨーロッパが交錯する時代をダイナミックに論じる。ブラウン博士の日本における講義を口語体で収録しているのでわかりやすい。

シリーズ:歴史の転換期

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